令和3年度 水稲作柄現地調査報告

令和3年度 水稲作柄現地調査報告

9月2日から3日にかけ、北海道農政部技術普及課・各地農業改良普及センター、道総研農業試験場、各地区米麦改良協会、関係機関の皆様のご協力を得て、水稲作柄現地調査を2班(道南班、道央・道北班)で実施しました。
本年度の調査につきましても、新型コロナウイルス感染対策を受け昨年に引き続き参加人数や調査箇所等を縮小した形で実施しております。
調査概要につきましては、北海道農政部技術普及課 水稲担当者の皆様に作成していただきましたので、ここにその内容を掲載いたします。
ご同行及び報告をまとめていただきました李家上席普及指導員様、狩野主任普及指導員様、小泉主任普及指導員様、内田主査様、またお忙しい中、現地で対応いただいた各農業改良普及センター・道総研農業試験場ほか関係の皆様に厚くお礼申し上げます。

令和3年9月15日
一般社団法人 北海道農産協会

令和3年度 水稲作柄現地調査の概要

道南班作柄報告

【渡島地区(北斗市)】

  • 一部軟弱徒長の苗も見られたが、苗素質は概ね平年並を確保した。
  • 移植作業及びその後の活着は平年並、分げつ始はやや遅れた。
  • 6月後半の曇天で初期茎数の確保は遅れたが、その後の好天により生育は回復傾向となった。
  • 出穂期は平年比5日早く、成熟期も地域によってばらつきはあるが、1週間程度早まる見通し。同様に収穫作業も早まりそう。
  • 穂数は平年よりやや少なめも、一穂籾数が多く、稔実歩合も平年以上に高く、稔実籾数は多めの予想。
北斗市 優決ほ場

北斗市 優決ほ場

【檜山南部地区(厚沢部町)】

  • 育苗時での高温により出芽不良が散見されたが、移植時の苗質は良好であった。
  • 移植作業はほぼ平年並。活着も良く、分げつ始も順調に推移した。
  • 6月中の生育も順調で、7月に入り高温多照が続いたことで、さらに生育は進み生育量も平年を上回って確保した。
  • 出穂期は平年比4日早く、成熟期も1週間程度早まる見込み。適期収穫判定会は9/10頃の予定。
  • 6月にイネヒメハモグリバエの被害ほ場が散見された。
厚沢部町 優決ほ場

厚沢部町 優決ほ場

【檜山北部支所(今金町)】

  • 育苗期は一部で床土乾燥による出芽ムラや出芽以降の低温があったが、平年並の苗質を確保した。
  • 移植期は1日早く、強風による葉先枯れが散見されたものの、活着期・分げつ始はほぼ平年並に。また、6月中の好天により分げつの発生は旺盛で、幼穂形成期も平年比4日早まった。
  • 出穂期は平年より5日早まり、その後の温度確保良好で、成熟期も1週間程度早まる見込み。
  • 穂数は平年並に落ち着いたが、一穂籾数は多く、稔実籾数は平年並以上。
  • 収穫作業は早いところで9月2週目あたりから始まる見通し。
今金町 優決ほ場

今金町 優決ほ場

【後志地区(蘭越町)】

  • 5月下旬の低温寡照により生育は停滞したが、その後の好天により生育は回復し、幼穂形成期時の茎数は平年を上回った。
  • 出穂期は平年比5日早く、成熟期も9日程度早まる見込み。
  • 穂数が平年よりやや多く、稔実籾数は平年よりも6%ほど多い。
蘭越町 優決ほ場

蘭越町 優決ほ場

【胆振地区(厚真町)】

  • 移植後の天候不順の影響で、生育は6月中旬まで3日程度遅れがみられ、その後好天により遅れは回復。
  • 7月中旬以降の高温経過により、出穂期は4日早まり、成熟期も平年比5日早い9月13日の見込み。
  • 茎数は平年より少なめで推移し、穂数で平年比92%。ただし1穂籾数が多く稔実歩合も高いため、稔実籾数は平年よりやや多い(103%)。
  • 収穫作業の本格化は9月10日以降の見通し。刈取判定会サンプルでは、「ゆめぴりか」で白未熟粒の発生が散見される。
厚真町 優決ほ場

厚真町 優決ほ場

【空知南西部地区(長沼町)】

  • 初期生育は6月上旬以降の好天で良好に。
  • 7月3半旬からの高温多照により生育は進み、出穂期は平年比5日、成熟期は7日早い9月7日を見込んでいる。
  • 一穂籾数はやや少ないが、穂数は平年比104%、稔実歩合もやや高く、稔実籾数はほぼ平年並に(101%)。
  • 収穫は一部で始まり、9月6日頃から本格化する見通し。
長沼町 優決ほ場

長沼町 優決ほ場

【空知中央地区(美唄市)】

  • 移植後の活着は良好も、5月6半旬は低温で生育はやや緩慢となった。6月4日の強風では葉先枯れが散見。
  • 6月以降は好天と高温経過により生育は順調に進み、初期茎数は平年より多い。
  • 出穂期は平年比4日、9月1日現在の生育は6日早く、成熟期は9月8日を見込んでいる。
  • 穂数は平年より多く(107%)、一穂籾数は平年並(99%)、稔実歩合は平年よりやや高く、稔実籾数は平年より多い(108%)。
  • 収穫は一部(走り8/27)で始まっており、9月6日頃から本格化。
  • 判定会サンプルでは遅発分げつからの死青米(未熟粒)が目立つ。
美唄市 優決ほ場

美唄市 優決ほ場

【石狩地区(当別町)】

  • 移植後の低温により、活着期、分げつ始は平年より1日遅い。
  • 7月中旬以降の高温により、出穂期は平年比5日進み、成熟期は9日早い9月9日を見込んでいる。
  • 穂数は平年並だが、一穂籾数が多く(平年比108%)、稔実歩合も高いため、稔実籾数は1割ほど多い。
  • 収穫は9月2週目あたりから。玄米判定サンプルには胴割粒が一部散見される。
当別町 優決ほ場

当別町 優決ほ場

道央・道北班作柄報告

【空知中・北部地区(新十津川町、深川市)】

  • 育苗中期が低温傾向であったため生育は緩慢に経過も、後半には回復。苗素質は若干劣る。
  • 移植後は低温寡照で一時停滞も、6月以降は好天により生育は回復し早まる。
  • 出穂期は平年対比で3~5日早い。成熟期も7日程早まる見込み。
  • 稔実籾数は新十津川ではやや多く、深川ではやや少ない予想。
  • 一部地域で取水制限があり、水管理に支障が出たほ場も。
  • 玄米判定会ではすでに収穫適期のほ場も散見され、判定サンプルからは白未熟粒等の発生は少ない状況である。
新十津川町 優決ほ場

新十津川町 優決ほ場

深川市農業センター 試験ほ場

深川市農業センター 試験ほ場

【留萌地区(留萌市)】

  • 移植後は最高気温が低く生育は緩慢となるも、6月の好天により回復。
  • その後も高温多照で生育が進み、出穂期は4日早くなり成熟期は6日程度早まる見込み。
  • 穂数が多く一穂籾数もやや多くなり、稔実籾数は平年より増える見込み。
  • 降水量不足により一部地域で取水が制限。ほ場の乾燥が進み白未熟粒等の発生が見られる地域もあるが、8/31の玄米判定会では品質には問題なし。刈取適期になっているほ場も散見。
留萌市 優決ほ場

留萌市 優決ほ場

【上川北部地区(名寄市、士別市)】

  • 移植時の苗質は名寄ではやや伸び気味も平年並、士別では若干劣る。
  • 移植直後の低温・強風で生育は、一時抑制もその後の好天で名寄は回復し、士別も緩やかに回復傾向に。
  • 出穂期は名寄では4日進み、士別では6日早まった。成熟期も6~7日程度早まる見込み。
  • 名寄では穂数・一穂籾数ともに多く、稔実籾数は平年を上回るが、士別では穂数がやや少なく、稔実籾数はやや少なめの見通し。
  • 収穫開始は士別では9/2週目あたりから、名寄では9月中旬以降と予想され、士別の初検査は9/6の見込み。
名寄市 作況はくちょうもち

名寄市 作況はくちょうもち

士別市 優決ほ場

士別市 優決ほ場

【上川中央地区(旭川市)】

  • 育苗中盤は低温傾向で生育は停滞も、後半には回復し草丈はやや伸び気味に。
  • 移植後は最高気温が上がらず生育は緩慢に経過も、6月の好天により回復し旺盛に。
  • その後も高温多照で生育は進み、出穂期は平年対比6日早まり、成熟期も10日程度早まる見通し。
  • 穂数は平年より多く一穂籾数はやや少ないものの、稔実籾数はやや多い見込み。
  • 石狩川の渇水により、一部地域で取水制限が出されるも、大事には至らず。
  • 8/28に収穫作業が開始。白未熟粒等の発生は少ない状況。
  • 一部地域でアカヒゲホソミドリカスミカメの多発生確認。
旭川市永山 優決ほ場

旭川市永山 優決ほ場

旭川市 隣接ほ場は収穫開始

旭川市 隣接ほ場は収穫開始

【上川南部地区(東川町、中富良野町)】

  • 2町とも、育苗中期が低温寡照傾向のため、苗素質は若干劣る中で移植開始。
  • 5月下旬からの低温寡照・一部強風により、移植後の生育は緩慢となったものの、6月の好天により回復した。ただし、深水管理を強いられた水田では、初期分げつの発生が抑制された。
  • 出穂期は東川で平年対比2日の早、中富良野で4日の早となった。
  • 東川では穂数が多く、稔実籾数は増加したが、中富良野では一穂籾数が少なく、稔実籾数は少なくなる見込み。
  • 成熟期が7日程度早まり、収穫作業も東川では9/1~2週目にかけて本格化する見通し。産米品質は青死米がやや多いスタートとなった。
  • 判定会サンプルでは白未熟粒や胴割米の発生は少ないが、一部で青死米が散見。
東川町 優決ほ場

東川町 優決ほ場

中富良野町 優決ほ場

中富良野町 優決ほ場

総合検討会における協議事項について

  1. 両班による調査終了後、道農政部(上川農試駐在)李家上席普及指導員を座長とする総合検討会を開催し、本調査のまとめと課題整理を行いました。
  2. 全道的な傾向としては、4~5月は気象の変動があったものの、苗の生育は概ね順調に進み、移植時苗素質はやや小さい~平年並となりました。また、一部地域を除き、早期異常出穂の発生は少なく、遅発分げつも少ないため、穂揃いが良好な年となりました。
     5月5半旬の低温・寡照・強風により6月1日の茎数は全道平均で93%と少ない傾向にありました。しかし、6月以降、高温・多照で経過したため、生育は回復し穂数はやや多く、一穂籾数と不稔歩合は平年並であったことから、稔実籾数は平年並~やや多く確保できる見通しとなっています。
     また、7月中旬から8月上旬が稀にみる高温で経過したため、白未熟粒や胴割粒の多発が懸念されましたが、出穂以降の生産者による懸命のかんがい作業が全道各地で実施され、被害の発生は最低限にとどまる見込みとなりました。
    なお、この高温・多照により、成熟期は7日程度早まる見通しです。
  3. 食味成分では、出穂後の気温が高く、アミロースは下がることが予想されます。穂揃いが良好であること、籾数が平年並に確保できたこと、熟色がきれいな地区が多いことを鑑みると、平年を上回る良食味が期待されます。
  4. 今後の技術対策については、高温登熟年のため、胴割粒や白未熟粒の発生が懸念され、玄米判定を行い米質を確認した中で、可能な限り適期刈り取りに努めることや急激な乾燥は胴割を助長するので、二段乾燥を実施し適切な調製を行うことが必要です。また、稲の熟色がきれいに仕上がっているので、それに惑わされることなく、玄米判定による整粒歩合の状態を見極めつつ、収穫時期を判断することが必須であるとの見解が示されました。
  5. 令和4年産に向けた収穫後の技術対策として、乾燥が進んだほ場では稲わらの搬出または秋すき込みや心土破砕の実施、湿田においては表面水排除の早期実施など必要との確認がなされました。
     また、本年は倒伏やなびきが見られるほ場が散見されました。低タンパク米の安定生産に向けて、これらのほ場では土壌診断を実施し、地力や乾土効果を再検討した中で、施肥設計を再考することが重要となります。
     加えて、全道的に後発生のヒエによる雑草害も目立ちました。当該ほ場では次年度もヒエの多発生が懸念されます。被害軽減に向けては、初期剤や後期剤を組み合わせた体系処理や高葉令のヒエにも卓効のある剤を選択するなどの対策が必要です。