令和2年度小麦作柄現地調査報告

 小麦の作柄現地調査につきましては、例年、出穂・開花期後の時期に、関係者が一同に同一圃場の作柄・生育状況を調査することで以降の技術対策等を検討すべく実施しておりましたが、本年度は新型コロナウイルス感染防止対策として関係者一同による調査を中止しました。

 しかしながら、調査の必要性・重要性に鑑み、北海道の協力を得て、7月7日~10日、小人数で調査を実施し、道農政部技術普及課花岡主任普及指導員・荒木主査に調査の報告書を作成いただきましたので、ここにその内容を掲載いたします。

 花岡主任普及指導員・荒木主査、お忙しいなか現地にて対応・ご協力いただきました生産者様、JA・普及センター・農業試験場他関係の皆様に心より感謝を申し上げます。

令和2年7月
一般社団法人 北海道農産協会

令和2年度小麦作柄調査の概要について

北海道農政部生産振興局技術普及課十勝農業試験場駐在 主任普及指導員  花岡伸光
〃       農業研究本部駐在  主査(普及指導) 荒木英晴

 令和2年7月7日~10日までの4日間の日程で小麦作柄現地調査を行った。参加者は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から人数を限定し、北海道農産協会および北海道農政部から合計5名とした。各現地では農業者、JA、農業改良普及センター、道総研から地域の作柄と当該圃場の生育状況等の説明をいただいた。

 調査箇所は石狩管内では当別町の圃場、空知管内では岩見沢市北村試験圃、美唄市の圃場、深川市農業センター、上川管内では旭川市の圃場、美瑛町の圃場、十勝管内では芽室町の圃場、音更町の圃場、士幌町の圃場、オホーツク管内では大空町の圃場、網走市の機械利用組合、小清水町の圃場で調査を行った。また、北見農業試験場では今後の育種動向および研究内容について説明をいただいた。

 当別町の調査圃場では、農業改良普及センターと連携した「きたほなみ」の融雪以降の施肥改善実証圃を調査した。融雪以降の追肥時期を遅らせ、窒素追肥量を少なくした試験区では葉が直立し、子実の充実も良好だった。農業改良普及センターの説明では、地区内では穂数過多傾向で倒伏ほ場が散見されているとのこと。また、赤さび病と葉枯症状の発生も散見されているとのことで、細麦が懸念されるとのことであった。

 岩見沢市北村試験圃では、西飯農業技術専門員から窒素追肥時期試験および赤さび病防除効果試験の説明をいただいた。窒素追肥時期試験では処理区により大きな差はなかったが、追肥時期を遅くした方が受光態勢は良さそうに見えた。また、赤さび病の防除試験では、5月12日に防除した区の防除効果が明らかに高く、今後の防除体系の見直しに向けて非常に興味深かった。地区内では近年、赤さび病の発生が問題となっているが、本年は防除薬剤の変更もあり、発生は少ないとのことであった。

 美唄市の調査圃場では、「きたほなみ」を調査した。
生産者からは①積雪期間が短かったことから雪腐病の被害は少なかった、②起生期茎数はここ数年で最も多かったことから穂数も多く、草丈はここ数年で最も長い、③開花時期は好天に恵まれ、登熟日数も40日以上になれば品質は平年並が期待できる、④近年問題となっている赤さび病の発生は少ないとの説明を受けた。地区内では例年、千粒重の軽さが問題となっているそうだが、倒伏圃場が散見された点は懸念材料であった。

 深川市農業センター圃場では、「きたほなみ」の施肥改善試験圃を調査した。窒素追肥時期試験を行っていたが、処理区により大きな差は見られなかった。担当する農業改良普及センターの話では、地区内では止葉が大きく垂れ、受光態勢の悪い圃場が多いとのこと。改善に向け、関係機関と連携した取組を熱心に行っており、今後の地区内への波及が大いに期待された。また、地区内では赤さび病と葉枯症状が散見されているとのことであった。

 旭川市では、昨年度の北海道麦作共励会で最優秀賞を受賞した安田圃場の「ゆめちから」を調査した。昨年までは「キタノカオリ」を作付けしていたが、今年から「ゆめちから」に切り替えたとのこと。穂数が少なく、止葉も立ち気味であることから、群落内へ光が十分に入っていた。穂の大きさ、子実の太りも申し分なく、「ゆめちから」の見本といえる圃場であった。生産者からは、葉枯症状が目立つ点が懸念材料とのことで、地区内でも発生が目立っているとのことであった。

 美瑛町の調査圃場では、「ゆめちから」と春まき小麦「春よ恋」を調査した。「ゆめちから」の穂数は作況平年値より少なく管理されており、倒伏は見られなかった。病害の発生は少なかったが、下位葉(第2葉以下)の枯死が散見された。「春よ恋」では、穂数は平年並に管理されており、うどんこ病、赤さび病も適切な防除により抑えられていた。地区内では、例年より止葉期抽出後に葉が黄化する症状が目立っているとのことであった。また、秋まき小麦では穂数が多く、倒伏圃場も散見された。

 芽室町の調査圃場①では「きたほなみ」、調査圃場②では「きたほなみ」と「ゆめちから」を調査した。生産者は受光態勢を意識した栽培法を導入しており、融雪以降の窒素追肥は5月6日から開始していた。穂数は適正で上位3葉もしっかり直立しており、地面まで十分に光が入る草姿であった。播種精度が高く、穂揃いも良好で子実の肥大も順調であった。病害の発生は少なく、葉の黄化も見られないことから安定した収量確保に期待が持てた。調査圃場②の「きたほなみ」でも受光態勢を意識した栽培法を導入しており、幼穂形成期を過ぎた5月9日から窒素追肥を開始していた。生産者の話では、「起生期追肥を行わないため幼穂形成期は他の生産者と比べ、さみしい草姿に見え不安だった。我慢するのに苦労した」そうだが、上位全葉は直立し、健全な緑色を維持するなど良好な草姿を作り上げていた。「ゆめちから」でも5月9日から窒素追肥を開始した箇所を設置しており、今後の収量結果が楽しみであった。なお、JAでは受光態勢を意識した栽培法の導入を進めており、今回調査した圃場からの技術波及に期待が持てた。

 音更町の調査圃場では「きたほなみ」を調査した。生産者は平成29年産から受光態勢を意識した栽培法を導入しており、導入以降は気象変動に左右されず安定した高収量が得られている。今年は5月5日から追肥を開始し、穂数は目標どおりに確保できたとのこと。JAが行った調査では、地区内の定点圃場の中で最も一穂あたり粒数が多く、子実の肥大も順調とのこと。病害の発生は少なく、上位全葉が直立した受光態勢の良い草姿をしていることから、今年も安定した高収量を得られることが期待できた。

 士幌町の調査圃場では、「きたほなみ」を調査した。士幌町では受光態勢を意識した栽培法が定着しており、調査圃場でも上位全葉が直立した受光態勢の良い草姿となっていた。穂数は比較的少なく、今年は日照不足であったものの子実の肥大は順調であった。赤かび病の発生が散見されたことがやや懸念材料であった。なお、圃場では農業改良普及センターとホクレンが連携し、ドローンを用いたセンシング技術を活用した起生期植生指数と葉面積指数(LAI)との関係を調査していた。適度な葉面積指数(LAI)確保は安定確収に重要なポイントであることから、今後は調査結果を基に融雪以降の窒素追肥技術を模索するとのことであった。

 北見農業試験場では、秋まき小麦有望系統「北見94号」、「北見96号」および春まき小麦有望系統「北見春79号」を調査した。「北見94号」は「きたほなみ」にコムギ縞萎縮病抵抗性遺伝子を導入した系統で、やや小粒であるがコムギ縞萎縮病に強く、その他の農業特性は「きたほなみ」と同程度であるとのこと。「北見96号」は「ゆめちから」より穂発芽耐性および赤かび病抵抗性が改善された系統で、その他の特性は「ゆめちから」に類似するとのこと。「北見春79号」は「春よ恋」と比較して穂発芽耐性がかなり優れ、製パン性が「春よ恋」並に優れるとのことで、各系統の今後の品種化が期待された。

 大空町の調査圃場では、「きたほなみ」を調査した。受光態勢を意識した栽培法に取り組み、起生期の生育状況を確認して追肥時期や量を調整した結果、狙い通りの穂数を確保できているとのこと。JA担当者から、舛本圃場と穂数過多圃場における、収量、品質、歩留を比較し、受光態勢を意識した栽培法の検証を行う予定であるとのこと。

 網走市の機械利用組合では、「きたほなみ」を調査した。農作業機の共同利用とオペレータ制による農作業の効率化を図りながら、適期作業と基本技術の励行により安定生産を実現している。本年は、病害の発生は見られないが、平年よりも穂数は多く出穂期以降の日照時間が少ないことから、子実の充実不足につながるのではと不安の声が聞かれた。

 小清水町の調査圃場では、「きたほなみ」を拝見した。計画的な堆肥の投入および緑肥作付による地力の向上とあわせて、こまめな生育確認と幼穂形成期に重点をおいた追肥を行い、受光態勢を意識した栽培法に取り組んでいた。その結果、起生期以降の追肥は5月3日の一回のみでも受光態勢に優れ、穂揃いの良好な草姿を確認でき、安定した収量を得られることが期待できた。地域では、病害の発生は少ないものの穂数が平年より多く、出穂期以降の日照時間が少ないことから、子実の充実不足が懸念された。

 今回の調査では、優良事例の圃場を多く調査したが、道東を中心に多くの圃場で受光態勢を意識した栽培法を導入していた。今年は出穂以降に曇天日が続いており、日照時間の少ない地域が多い。このような条件下では、限りある光を有効に利用できる草姿づくりが重要であり、受光態勢の良否が収量および品質を左右すると思われた。実際に受光態勢を意識した栽培法を導入した圃場では、子実の肥大は順調で安定した収量確保が期待できた。一方、本年は①十勝などを除き全道的に穂数が多い、②登熟期間中の日照時間が少なく、最低気温が高い(登熟環境が不利)、③赤さび病や葉枯症状が散見されることから、細麦傾向で製品歩留低下を懸念する地域が多かった。

 今後は雨に遭遇する前に迅速な収穫作業を行い、品質低下を防ぐことが重要になる。併せて、農作業安全にも留意が必要である。これまでの農業者、関係機関の精力的な取組が実り、昨年に引き続いて本年の作柄が良好となることを祈念する。