令和3年度小麦作柄現地調査報告

令和3年度秋まき小麦起生期現地調査報告

4月19日から22日まで、北海道、地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 農業研究本部、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センターの協力を得て、各地の越冬状況を把握し今後の栽培管理に生かしていくことを目的に起生期調査を実施しました。

調査概要につきましては、道農政部生産振興局技術普及課 上堀上席普及指導員、花岡主任普及指導員、荒木主査に作成していただきましたので、ここにその内容を掲載いたします。

上堀上席普及指導員、花岡主任普及指導員、荒木主査、お忙しいなか現地対応いただいた生産者様、JA、普及センター・農業試験場ほか関係の皆様に感謝申し上げます。

令和3年4月

一般社団法人 北海道農産協会

令和3年度秋まき小麦起生期調査の概要について

道央地域

道央地域では、京極町と倶知安町では「きたほなみ」圃場、千歳市、安平町および伊達市では「ゆめちから」圃場、岩見沢市では優良品種決定現地調査圃場を調査した。

京極町の圃場では、一部に残雪があった。生育状況は、越冬前の気温が高かったことから主茎葉齢は6.5~7.0葉と大きく順調であった。冬損状況は、紅色雪腐病が散見されたが、枯死に至るほどの被害程度ではなく、順調に回復すると思われた。同圃場は普及センターの「受光態勢に着目した「きたほなみ」の安定栽培法」の実証試験を兼ねており、実証結果の地域内波及が期待された。

倶知安町では、高山和男氏(令和2年度北海道麦作共励会最優秀賞)の圃場を調査した。播種量は少なく、主茎葉齢は5.5葉前後、茎数は1,000本/㎡程度であった。雪腐病の発生はほとんど無かった。融雪直後であったが、滞水した場所は見られず茎数も適正であり、今後の管理により多収が期待できる圃場であった。

千歳市の圃場では、播種後の気温が高めで推移したことから、主茎葉齢は7葉以上と大きく過繁茂傾向であった。雪腐病の発生は少ないものの、紅色雪腐病がやや目立った。近年、千歳市では越冬前の気温が高く過繁茂傾向となることから、播種量の見直しを進めていた。

安平町の圃場では、主茎葉齢が5.5葉以上確保されており、やや過繁茂傾向であった。起生期は早く、越冬後の生育は順調であった。平年に比べて積雪期間が短かったことから、雪腐病の発生はほとんど無かった。

伊達市の圃場では、10月2日播種であったが主茎葉齢は大きかった。播種量は200粒/㎡程度であり、茎数は適正に管理されていた。積雪期間が短いため、雪腐病の発生はほとんど無かった。

岩見沢市の優良品種決定現地調査圃場では、「きたほなみ」「ゆめちから」「北海266号」「北海267号」を調査した。岩見沢市では当年の積雪量が極めて多く、融雪前は冬損被害が懸念された。しかし、滞水した場所で枯死株が見られたものの、被害は最小限であった。品種・系統による越冬性の違いは判然としなかった。なお、地域内では既に赤さび病の発生が確認されているとのことであった。

【道央地域まとめ】

越冬後の生育は順調であり、雪腐病等の冬損被害もかなり少ない状況にあった。その一方、過繁茂圃場が多いため、倒伏を防ぐための適切な肥培管理が必要と思われた。また、近年、道央地域では赤さび病の発生が問題となっている。既に発生が確認されていることから圃場観察に努め、発生状況に応じた防除が必要と思われた。

美瑛町

美瑛町

上川地域

上川地域では、富良野市で「きたほなみ」圃場、美瑛町と旭川市で「ゆめちから」圃場を調査した。
富良野市の圃場では、越冬後の主茎葉数は5.5葉程度、茎数は800~900本/㎡程度であった。平年に比べ積雪量は多かったが、融雪は早く、積雪期間も短かったことから雪腐病の発生はほとんど無かった。なお、地域内では、以前は空中散布による雪腐病防除が多かったが、近年はコムギなまぐさ黒穂病の発生リスク考慮し、少なくなったとのこと。
美瑛町の圃場では、起生期茎数が平年より多く、1,100~1,400本/㎡程度であった。雪腐病の発生は少なく、褐色雪腐病と紅色雪腐病が散見された。越冬前の生育が旺盛だったことから茎葉の枯れ込みが目立つものの、順調に回復すると見込まれた。地域内では、コムギ縞萎縮病の発生が散見されるとのことであった。
旭川市では、平田春樹氏(令和2年度北海道麦作共励会優秀賞)の圃場を調査した。越冬前は主茎葉齢6.5葉前後、茎数1,200本/㎡程度で越冬し、起生期の茎数は1,600本/㎡程度であった。雪腐病の発生は少なく、紅色雪腐病と褐色雪腐病が散見された。地域内の「きたほなみ」では、起生期の追肥を遅らせる技術が普及しつつあるが、「ゆめちから」での適応性についても試しているとのことであった。

【上川地域まとめ】

茎数過多の圃場は見られるものの、越冬後の生育は順調であった。また、雪腐病等の冬損被害は少ない状況にあり、廃耕面積は平年より少ないと見込まれた。

倶知安町

倶知安町

 

北海道農政部生産振興局技術普及課農業研究本部駐在

 主査(普及指導) 荒木英晴

十勝地域

十勝管内では鹿追町の笹川圃場、音更町の五十川圃場(令和2年度全国米麦改良協会長賞受賞農家)、士幌町の農業試験センター圃場、本別町の山下圃場で調査を行った。
鹿追町の笹川圃場では、優良品種決定現地調査圃場を調査した。は種期は9月22日、雪腐病の発生はなく起生期は平年より早く、越冬状況は良好であった。凍害を見込んでは種量を多くしたが、本年は土壌凍結が平年より深く入ったものの、凍害は少なく茎数過剰気味となった。
音更町の五十川圃場では、「きたほなみ」を調査した。は種作業は、ほ場条件の良い8月30日には種量4kg/10aで実施した。雪腐病の発生はなく起生期は平年より早く、越冬状況は良好であった。起生期の茎数は約1,800本/㎡と十分に確保されており、今後、生育の状況を確認しながら窒素追肥を行うとのこと。
士幌町の農業試験センター圃場では、優良品種決定現地調査圃場を調査した。は種期は9月24日、雪腐病の発生はなかったが、土壌凍結が50~60cmと平年よりも深く入り、一部凍害を受けた。試験ほ場の調査地点等について、農業試験場と対応を検討した。
本別町の山下圃場では、優良品種決定現地調査圃場を調査した。は種期は9月24日、雪腐病の発生はなく起生期は平年より早く、越冬状況は良好であった。試験区の一部で凍害を受けたが、今後の調査には問題ないとのこと。
十勝地域をまとめると、越冬後の生育は順調で雪腐病の被害は少ないものの、一部凍害を受けたほ場がみられた。いずれの調査ほ場でも茎数は確保されており、生育状況を観察しながら適正な茎数管理を行うとのことであった。

【十勝地域まとめ】

越冬後の生育は順調で雪腐病の被害は少ないものの、一部凍害を受けたほ場がみられた。いずれの調査ほ場でも茎数は確保されており、生育状況を観察しながら適正な茎数管理を行うとのことであった。

音更町

音更町

本別町

本別町

北海道農政部生産振興局技術普及課十勝農業試験場駐在

主任普及指導員  花岡伸光

オホーツク地域

オホーツク地域では、大空町女満別で優良品種決定現地調査ほ場、網走市、小清水町で「きたほなみ」ほ場を調査した。
大空町女満別のほ場では「ゆめちから」と新品種候補2系統の現地適応性を確認しており、いずれも生育は良好であった。雪腐病は黒色小粒と大粒菌核病が発生したが少なく、品種・系統間にわずかではあるが発生程度に差が見られた。
網走市のほ場では、は種精度を高めるためにロータリー耕だけで砕土・整地を行い、は種量を、基準量より10%程度減じている。は種適期内に作業を終えているが、越冬前の気温が高く推移したことと融雪期が早かったことで茎数は平年より多い(調査時で1,800本/10a程度)。雪腐病の発生は少なかった。
小清水町のほ場は9月23日には種し、越冬後の生育も順調で、調査時の茎数は約2,000本/10aであった。少量は種(4.8㎏/10a)としており、出芽率を向上させるためは種深度が一定になるよう整地している。また、越冬後の生育をよく観察し、過半茂にしないこと、登熟を均一化することや倒伏させないことを心がけて栽培管理を行っているとのことであった。
オホーツク地域の調査結果をまとめると、越冬前の気温が平年より高く推移したこと、融雪期が早まったことにより、生育は旺盛であった。いずれの調査ほ場でも今後の生育状況を観察しながら管理するとのことであった。雪腐病の発生は少なかったが、縞萎縮病は例年より多かった。

【オホーツク地域まとめ】

越冬前の気温が平年より高く推移したことで、越冬前の生育は旺盛であった。加えて積雪期間が短かったことにより雪腐病の発生は少なく、越冬後も順調に生育した。いずれの調査ほ場でも茎数は平年を上回った。今後、生育状況を観察しながら適正な茎数に管理するとのことであった。
縞萎縮病の発生は例年に比べて多かった。

網走市

網走市

北海道農政部生産振興局技術普及課北見農業試験場駐在

上席普及指導員 上堀孝之

 

今後の栽培管理について

小麦の生育を良く観察し、施肥管理、病害虫防除を適切に行い、高収量で高品質な小麦生産を目指しましょう。

  1. 小麦の生育状況に応じた施肥管理の徹底
    全道的に越冬前の生育が良好で、雪腐病の発生も少ないことから、茎数は平年を上回る地域が多い。今後、穂数550~650本/㎡の確保を目標に茎数の推移を観察しながら施肥管理を進める。
  2. 病害虫の適正防除
    1. (1)うどんこ病
      茎数が多く過繁茂となっている圃場では、うどんこ病の発生が助長される場合があるので、発生に状況をよく確認する。特に、出穂前に上位葉にうどんこ病の病斑が見られる場合は、防除を実施する。
    2. (2)赤さび病
      本病は、高温少雨条件で多発するので、融雪後から病斑の見られる圃場では、急激な発生拡大する場合があるので、圃場をよく観察し発生初期に薬剤防除を行う。
    3. (3)なまぐさ黒穂病
      なまぐさ黒穂病は、年々減少してきているが、新規発生した市町村もあることから、引き続き早期発見と適正な防除に努める。
    4. (4)赤かび病
      本病は開花期に感染しやすい。薬剤による防除効果を最大にするためには、穂の出揃った開花始に1回目の防除を実施する。
    5. (5)縞萎縮病
      縞萎縮ウイルスは小麦を作付することで爆発的に増加するので、適切な輪作に心がけ、小麦の過作を避ける。また、極端な早まきは、小麦がウイルスに感染する期間を長くなり、縞萎縮病の発生を増加させるので、輪作体系や播種時期の適正化をはかる。

(文責 一般社団法人 北海道農産協会 技監 三宅俊秀)