令和3年度小麦作柄現地調査報告

令和3年度 小麦作柄現地調査報告

6月28日から30日、7月2日の4日間、北海道農政部技術普及課、各農業改良普及センター、各地区米麦改良協会、各市町、各農業協同組合、生産者に皆さんの協力を得て、小麦作柄現地調査を実施しました。

調査概要につきましては、道農政部生産振興局技術普及課 上堀上席普及指導員、片山総括普及指導員、花岡主任普及指導員、荒木主査に作成していただきましたので、ここにその内容を掲載いたします。

上堀上席普及指導員、片山総括普及指導員、花岡主任普及指導員、荒木主査、お忙しいなか現地対応いただいた生産者の皆様、各JA、農業改良普及センター・農業試験場ほか関係の皆様に感謝申し上げます。

令和3年7月8日

一般社団法人 北海道農産協会

令和3年度 小麦作柄現地調査の概要

 北海道農政部生産振興局技術普及課

オホーツク管内

美幌地区の生育状況について聞き取り調査、網走市、小清水町で「きたほなみ」圃場を調査した。また、北見農業試験場の小麦育種圃場も視察した。

美幌地域の越冬後の茎数は平年を上回り、5月以降の低温により弱小茎の淘汰が緩慢になった。6月から天候が回復し、ほぼ平年並みに生育している。稈長は平年より長く、茎数は平年を上回り、軟弱に生育していることから倒伏が懸念される。

網走市

網走市

小清水町

小清水町

網走市の圃場も同様に越冬後の茎数が多く、幼穂形成期の追肥を控えた。しかし、茎数の淘汰は緩慢で、平年を上回って推移し軟弱に生育している。出穂期間は好天に恵まれ、出穂、開花の揃いは良かった。

小清水町の圃場は少量播種(4.8㎏/10a、9/23播種しており、越冬後は生育量をこまめに確認して追肥を行うことで生育ムラを軽減し、登熟の均一化を図っている。茎数の多い部分のみ植物成長調整剤を施用している。

【オホーツク管内まとめ】

オホーツク管内全体をまとめると、いずれの圃場も越冬後の茎数は多く、5月以降の低温により弱小茎の淘汰が緩慢で、茎数は平年を上回っていた。出穂、開花の揃いは良かったが、主茎と分げつの稈長の差がやや目立ち、見た目の穂揃いは平年よりやや劣っている。また、一部圃場ではコムギ縞萎縮病による出穂の不揃いが見られた。稈長は平年より長く、軟弱に生育していることから倒伏が懸念されるものの、収量は平年作が期待できる。

十勝管内

士幌町で優良品種決定現地調査圃場、音更町、帯広市で「きたほなみ」を調査した。

士幌町の優良品種決定現地調査圃場では、「ゆめちから」の後継系統「北海266号」、「北海267号」の生育特性について確認した。両系統ともに「ゆめちから」と同等の生育であった。凍害を受けた試験区の一部で茎数が少なく推移したものの、品種特性は十分把握できるものと思われた。町内における「きたほなみ」の生育状況はおおむね平年並みに推移しており、順調であるが、穂数が多く倒伏が懸念される圃場も見られるとのことだった。

音更町の圃場では、土壌条件および気象条件を考慮した早期播種により、穂数を確保していた。穂数が多い圃場では、植物成長調整剤の適正使用により稈長は抑えられ、倒伏リスクを軽減していた。また、計画的な堆肥の施用により地力は高く維持されており、基肥を含めた総窒素施肥量は8kg/10a以下で管理していた。

帯広市の圃場では、平年よりやや遅めの播種であったが、平年並みの穂数を確保していた。出穂から開花にかけて好天に恵まれ揃いは良好であった。

士幌町

士幌町

音更町

音更町

【十勝管内まとめ】

十勝管内全体をまとめると、越冬後の茎数は多く、起生期、幼穂形成期は平年より早かった。

5月以降、低温の時期があり生育は停滞したものの、6月上旬以降天候は回復し、平年並の生育で経過している。出穂、開花時期は高温となり穂揃いは良い。平年と比較して稈長はやや長く、穂数は多く、軟弱に生育していることから、登熟期間中の風雨による倒伏が懸念される。収量は現在のところ平年作が期待できる。

赤かび病やうどんこ病の発生など病害虫の発生は少ない。一部圃場ではコムギ縞萎縮病による出穂の不揃いが見られた。

上川管内

美瑛町の優良品種決定現地調査圃場と、旭川市西神楽の「ゆめちから」圃場を調査した。

美瑛町の優良品種決定現地調査圃場では、「ゆめちから」の後継系統「北海266号」、「北海267号」の生育特性について確認した。「ゆめちから」と比較して「北海267号」は同等の生育であるのに対し、「北海266号」は出穂期がやや遅く、うどんこ病の発生はやや少なかった。

地区の秋まき小麦の生育は、草丈、茎数ともに平年を上回り、軟弱に生育していることから倒伏が懸念される。高温・少雨で経過しているが、夜温が低いことから、収量は平年作が期待できる。本年はコムギ縞萎縮病の症状が強く表れた。また、立枯病が散見された。春まき小麦(春よ恋)は、播種後の低温により出芽率が低く、茎数の少ない圃場が見られた。6月中旬以降、葉の黄化症状が発生した。

旭川市西神楽も同様に越冬後の茎数が多く推移している。6月に入り好天に恵まれ、出穂、開花の揃いは良かった。6月2半旬以降は高温・少雨で経過しており、転作畑で早期枯れ上がりが顕著である。

美瑛町

美瑛町

旭川市

旭川市

【上川管内まとめ】

上川管内全体をまとめると、秋まき小麦はいずれの圃場も越冬後の茎数は多く、5月以降の低温により弱小茎の淘汰が緩慢で、茎数は平年を上回っていた。6月に入り天候は回復し、生育は平年並みに経過している。出穂、開花時期は高温となり穂揃いは良い。平年と比較して稈長はやや長く、穂数は多く、軟弱に生育していることから、倒伏が懸念される。収量は現在のところ平年作が期待できる。コムギ縞萎縮病の発生が見られ、症状の顕著な圃場では出穂の遅れ、ばらつきが発生している。赤かび病やうどんこ病は少ないが、一部圃場では赤さび病や立枯病の発生が見られる。

春まき小麦は、融雪が早まったことから播種作業は平年より早かったが、播種後の低温と降雨により出芽期は平年並みとなった。圃場内で出芽がばらつき、一部では出芽不良により㎡あたりの茎数が少ない圃場が見られる。幼穂形成期、止葉期は平年並みである。

空知管内

深川市、岩見沢市では「きたほなみ」の受光態勢改善試験圃と赤さび病防除試験圃、美唄市では「きたほなみ」圃場を調査した。

深川市と岩見沢市の受光態勢改善試験圃では、融雪以降の窒素追肥時期を遅くすると直立葉の草姿となり、受光態勢は改善できることを確認した。また、赤さび病防除試験圃では、防除開始時期による防除効果の違いを確認した。

美唄市の「きたほなみ」圃場では、冬期間の積雪量が多く生育遅れが懸念されたものの、生育はほぼ平年並みであった。また、平年より出現分げつに対する有効化率は高い一方、穂数はほぼ平年並みであった。

深川市

深川市

岩見沢市

岩見沢市

【空知管内まとめ】

空知管内全体をまとめると、5月以降は低温時期があり、生育は一時停滞気味であったものの、6月上旬以降天候は回復し、平年並みで経過していた。出穂、開花時期は高温となり穂揃いは良好であった。平年と比較して稈長はやや長く、穂数は平年並みからやや多く、軟弱気味であるため倒伏圃場が見られた。今後、倒伏の拡大は懸念されるものの、収量は平年作が期待できた。

病害虫の発生では、コムギ縞萎縮病の発生は昨年より軽度であった。赤かび病は少ない一方、赤さび病やうどんこ病が目立つ圃場があった。また、立枯病が散見された。

石狩管内

当別町において、農業者と農業改良普及センターが連携して設置した「きたほなみ」の受光態勢改善試験圃を調査した。融雪以降の追肥時期を遅くすると直立葉の草姿となり、群落下部まで十分な光が届いていた。また、直立葉の草姿となった試験区では、赤さび病やうどんこ病の発生が少なかった。

【石狩管内まとめ】

石狩管内全体をまとめると、越冬後の茎数が多く、5月以降の低温により弱小茎の淘汰が緩慢となったことから穂数は多かった。6月上旬以降は天候が回復し、生育は平年並みで経過していた。出穂、開花時期は高温となり穂揃いは良好であった。平年と比較して稈長はやや長く軟弱に生育しており、倒伏圃場が見られた。倒伏の拡大は懸念されるものの、収量は平年作が期待できた。

病害虫の発生では、赤かび病は少ない一方、赤さび病やうどんこ病が目立った。

全体まとめ(秋まき小麦)

いずれの地域も、越冬前の生育期間が長かったこと、融雪期が早まったこと、雪腐病等の冬損が少なかったことから、越冬後の茎数は平年を上回っていた。また、5月以降、低温の時期があり、弱小茎の淘汰が緩慢になったことから、穂数は平年より多い。稈長は平年より長く、一部地域(空知、石狩)では倒伏の発生が見られた。倒伏の拡大は懸念されるが、収量は現在のところ平年作が期待できる。

病害虫では、縞萎縮病が広範囲に発生し、地域によっては生育、出穂がばらついている。赤かび病は出穂時期の好天により発生は少ない。一方で、赤さび病、うどんこ病が目立つ地域(空知、石狩、上川)がある。また、一部地域で立枯病(空知、石狩、上川)の発生も見られる。

収穫にあたっては、各圃場の登熟状況をよく確認し、適期収穫に努める。

令和4年産の播種に向けては、過度な茎数とならないよう適期適量播種に努める。

また、コムギ縞萎縮病の発生面積が拡大傾向にあること、一部地域で立枯病が発生していることから、適正輪作や排水対策など基本技術を励行し、小麦が健全に生育できる圃場管理に努めることが肝要である。